日産自動車は、日本を代表する自動車メーカーのひとつです。1933年に創業されて以来、長い歴史の中で多くの革新的な車を生み出し、国内外で高い評価を得ています。その製品は、乗用車だけでなく、モータースポーツや電動車両といった幅広い分野にわたり、技術力と信頼性で知られています。
本記事では、日産自動車の歴史を初心者にもわかりやすく振り返ります。創業当時の背景から、革新的な技術、経営の挑戦、そして現代に至るまでの歩みを詳細に解説していきます。この記事を通じて、日産がどのように成長してきたのか、そして未来に向けてどのようなビジョンを描いているのかを知っていただければ幸いです。
日産の創業と初期の歴史：国産車開発の始まり
日産創業の背景：快進社と日本初の国産車「DAT」開発
日産自動車の歴史は、1911年に橋本増治郎が設立した「快進社自働車工場」から始まります。当時、日本では輸入車が主流であり、国産車の製造はほとんど行われていませんでした。橋本増治郎は日本独自の小型自動車を作り出すことを目指し、1914年に快進社が手掛けた初の国産乗用車「DAT（脱兎号）」を世に送り出しました。この車は、当時の日本の道路事情に適したコンパクトな設計が特徴でした。
「DAT」の名前は、資金協力者である田健治郎、青山禄郎、竹内明太郎の頭文字をとったもので、これが後に日産の車種名にもつながっていきます。しかし、快進社は経営難に陥り、1925年に「ダット自動車商会」として再編成されました。この時期、他にも「実用自動車製造株式会社」が大阪で三輪自動車の生産を進めており、後にこれらの企業が統合され、日産自動車の礎となるのです。
1920年代から1930年代にかけて、日本国内の自動車産業は大きな変革を迎えます。関東大震災の影響や外国車の流入などにより、多くの企業が経営の転換期を迎えました。1931年には、ダット自動車商会が「ダットソン」という小型車を開発します。この名前は「DATの息子（Son）」を意味しましたが、日本語の「損」を連想させることから、太陽を意味する「Sun」に変更され、「ダットサン」として世界に広がることになります。
1933年、鮎川義介が設立した「戸畑鋳物株式会社」がダット自動車を支援し、「自動車製造株式会社」を設立しました。この会社が翌年「日産自動車株式会社」と改称し、現代の「日産」が正式に誕生しました。
ダットサン12型フェートンの登場：日産初期モデルの革新
日産自動車が初期に製造した車両の中でも、特に注目すべきモデルが「ダットサン12型フェートン」です。このモデルは1933年に生産が始まり、小型で扱いやすく、信頼性の高いエンジンを備えていました。当時、国内での小型車需要が高まる中、「ダットサン」シリーズは次第に広い支持を得ていきました。
また、1950年代には「ダットサン・210型」が登場し、日産の名声をさらに高めました。この車両は、1958年に開催されたオーストラリア大陸一周ラリーに参戦し、クラス優勝を果たしました。この成果は、日産が耐久性と技術力に優れた車を製造していることを世界に示した象徴的な出来事でした。
さらに、1935年には横浜工場が稼働を開始し、国内初の本格的な自動車生産ラインが整備されました。この工場では、ダットサンシリーズの量産が進められ、日産の国内市場での地位を確立する重要な役割を果たしました。
日産黎明期のビジョンと革新：国産小型車へのこだわり
日産の初期の成功を支えたのは、次のような要素です。
- 国産車へのこだわり：輸入車に頼らず、日本の道路事情や消費者ニーズに応じた車を開発。
- 小型車の開発力：取り回しの良い小型車で、市場での優位性を確保。
- 技術革新：新技術の積極的な導入による信頼性の高い車両の提供。
- 経営の柔軟性：困難な経済状況においても、統合や資金調達を通じて存続を図る戦略。
これらの取り組みによって、日産は自動車産業の基盤を築き、成長への足掛かりを得ることができました。初期の時代に培った技術とブランドは、その後の日産自動車の飛躍に大きく貢献することになります。
日産の技術革新と成長：革新的車種の登場
日産の革新：新技術と代表的車種の進化
日産自動車は、創業当初から革新的な技術開発に注力してきましたが、特に1960年代から1980年代はその技術力が飛躍的に向上した時代です。この期間において、日産は多くの新技術を導入し、画期的な車種を生み出しました。
フェアレディZの誕生：日産スポーツカーの新時代
1969年、日産は「フェアレディZ」を発表しました。この車は、高性能スポーツカーでありながら手頃な価格を実現し、北米市場を中心に大ヒットしました。2.4リッター直列6気筒エンジンを搭載したこの車は、最高速度200km/hを超える性能を持ち、当時のスポーツカー市場において価格性能比でトップクラスと評価されました。フェアレディZは現在に至るまでシリーズが続く、日産を象徴する車種の一つとなっています。
スカイラインGT-Rの伝説と背景：高性能スポーツカーの象徴
同じ年には、伝説のスポーツカー「スカイラインGT-R」が初めて登場しました。直列6気筒エンジン「S20型」を搭載し、レース仕様に近い高性能を実現したこの車は、特に日本国内での人気を集めました。GT-Rはモータースポーツでも輝かしい成績を収め、「羊の皮を被った狼」として知られるようになり、その後のモデルにも受け継がれる性能とデザイン哲学を確立しました。
ブルーバードSSS：1970年代の日産大ヒットモデル
1970年代には、ファミリーカー市場向けに「ブルーバードSSS」が発売されました。この車は、日産の技術力を駆使し、快適性と走行性能を両立したモデルです。特にエンジン性能が高く、高速道路での安定した走行が可能であることから、多くの家族層に支持されました。
環境規制を克服した日産の技術革新：排出ガス低減への取り組み
1970年代後半、排出ガス規制が強化される中、日産はエンジンの燃費向上と排出ガス低減技術の開発に取り組みました。1977年には触媒コンバーターを搭載した「クリーナーシックス」を発売し、環境負荷低減の先駆者として注目されました。また、1980年代には電動化技術の研究を開始し、後の電気自動車「リーフ」の基盤を築きました。
日産のモータースポーツ挑戦：輝かしい成果と未来展望
モータースポーツへの挑戦は、日産にとって技術開発の重要な舞台でした。これにより、性能向上のためのデータ収集と技術革新が可能となり、市販車にもその成果が反映されました。
1964年日本GPでの快挙：プリンス・スカイラインGTの躍進
1964年、日本の自動車産業にとって歴史的なイベントである「第2回日本グランプリ」が開催されました。このレースで、プリンス自動車（後に日産と合併）の「スカイラインGT」がポルシェ904GTSと激戦を繰り広げ、総合2位という快挙を達成しました。この結果は日本製スポーツカーの可能性を世界に示す大きな一歩となり、後に日産がモータースポーツ界での地位を確立するきっかけとなりました。
NISMOの誕生：日産の挑戦と世界的成功
1984年、日産はモータースポーツ部門を専門に行う「ニスモ（Nissan Motorsport International Ltd.）」を設立しました。この部門は、国内外のレースに積極的に参戦し、多くの成果を上げました。特に、1990年代に展開された全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権（JSPC）では、「R90CP」や「R91CP」が輝かしい成績を収め、技術力の高さを証明しました。
また、ル・マン24時間レースやSUPER GTなどの国際レースでも成功を収め、モータースポーツにおける日産のブランド価値を世界に広げました。
日産の技術革新が市販車に与えた影響：進化の軌跡
モータースポーツでの経験は、市販車の性能向上に直結しました。たとえば、スカイラインGT-Rに搭載された「アテーサE-TS」や「スーパーHICAS」といった技術は、レースから得た知見をもとに開発されたもので、日常のドライビングでの安全性や快適性を向上させました。
このように、日産自動車は革新的な技術を積極的に取り入れ、またモータースポーツを通じてその技術を磨き上げました。この時代の取り組みは、現在の「技術の日産」という評価を築く大きな礎となっています。
日産の経営危機克服と再編戦略：ルノーとの提携と復活
日産の経営危機とルノー提携：再生への道
1990年代、日本の経済はバブル崩壊後の長期的な低迷期に入り、日産自動車もその影響を大きく受けました。特に販売台数の減少や過剰な投資によるコスト増大が問題となり、1998年には2兆円を超える有利子負債を抱える深刻な経営状況に陥りました。このままでは企業として存続が危ぶまれる事態でした。
この危機を打開するため、日産は1999年にフランスの自動車メーカーであるルノーと資本提携を結びました。ルノーは日産の株式の43.4%を取得し、経営の立て直しを主導することとなります。ルノーとの提携は、当時としては画期的な国際的提携の一例であり、日産の再建を目指す第一歩でした。
提携の狙いは、ルノーの資本と経営ノウハウを活用しながら、日産の生産効率を向上させることにありました。一方、ルノーにとっても日産との協力は、アジア市場での影響力を高める重要な戦略でした。この相互利益を目指した提携は、「ルノー・日産アライアンス」として知られるようになり、現在も続く自動車業界最大規模の連携体制を築き上げました。
カルロス・ゴーンのリーダーシップと日産リバイバルプラン
ルノーから派遣されたカルロス・ゴーン氏が、1999年に日産自動車の最高執行責任者（COO）に就任しました。ゴーン氏は、経営危機に直面した日産を救うため、就任直後に「日産リバイバルプラン（NRP）」を発表しました。この計画は、明確な数値目標を設定したことで注目されました。
具体的には以下のような目標が掲げられました。
- 3年間で有利子負債を2兆円から1兆円以下に削減する。
- 営業利益率を4.5%に引き上げる。
- 達成できなかった場合には経営陣が辞任する。
このような大胆で透明性のある目標設定により、ゴーン氏は社員や株主の信頼を得ることに成功しました。また、コスト削減のための徹底的な改革も行われました。具体的には、次のような施策が実施されました。
国内外での工場閉鎖（5工場の閉鎖）
部品供給業者の統廃合による効率化
不採算車種の廃止
さらに、ゴーン氏は「現場主義」を徹底し、自ら生産ラインや販売店を訪れ、現場の声を直接聞く姿勢を示しました。このアプローチは社員の士気を高め、組織全体が再建に向けて一丸となる効果を生みました。
日産改革の成果と影響：持続的成長への道
ゴーン氏のリーダーシップの下、日産は2001年には営業利益で過去最高を記録し、劇的なV字回復を遂げました。「日産リバイバルプラン」は予定よりも早く達成され、日産は再び自動車業界の一線に返り咲くこととなります。特に、収益性の高い車種の投入や、販売チャネルの強化が成功要因となりました。
一方、ゴーン氏の経営改革には批判も伴いました。徹底したコスト削減や工場閉鎖は、地域経済や従業員に大きな影響を与えました。さらに、後年にはゴーン氏自身の報酬や経営方針を巡る問題が明るみに出るなど、彼のリーダーシップには賛否が分かれる面もあります。
それでも、ゴーン氏が日産の再建に果たした役割は大きく、彼の改革は世界中の企業にとって重要な教訓となりました。また、ルノーとの提携を基盤としたアライアンスは、現在でも日産の競争力を支える柱となっています。
日産自動車が直面した経営危機は、ルノーとの提携とカルロス・ゴーン氏の大胆な改革によって乗り越えられました。この時代の挑戦と成果は、日産の企業文化に深く根付き、現在のグローバルな自動車メーカーとしての地位を築く基盤となっています。
現代の日産と未来展望：電動化と自動運転技術への挑戦
日産の電動化と自動運転技術への取り組み
日産自動車は、持続可能なモビリティ社会の実現に向け、電動化技術と自動運転技術の開発に積極的に取り組んでいます。
日産の電動化技術推進：未来のモビリティ
日産は、電気自動車（EV）のパイオニアとして、2010年に世界初の量産型EV「リーフ」を発売し、以降も電動化技術の革新を続けています。特に、ガソリンエンジンで発電し、電気モーターで走行する「e-POWER」技術は、充電の手間を省きつつ、電動車ならではのスムーズで力強い走りを実現しています。
さらに、2021年11月に発表された長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」では、2030年度までに19車種のEVを含む27車種の電動車を導入し、グローバルでの電動車比率を55%以上とする目標を掲げています。
日産の自動運転技術開発：次世代ドライビング
自動運転技術においても、日産は「プロパイロット」を開発し、2016年から市販車に搭載しています。このシステムは、高速道路での同一車線内におけるハンズオフ走行を可能にし、ドライバーの負担軽減と安全性向上に寄与しています。また、完全自動運転の実現に向けて、最新のセンサー技術やAIを活用した研究開発を進めています。
日産の持続可能な社会への貢献と未来ビジョン
日産は、環境・社会・ガバナンス（ESG）の各分野で持続可能な社会への貢献を目指しています。
日産の環境への取り組み：エコカーとサステナビリティ
2050年までに製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げ、電動車の普及や生産工程の脱炭素化を推進しています。また、全固体電池（ASSB）の開発を進め、2028年までに市場投入を目指しています。
日産の地域社会への貢献：CSR活動と社会的責任
日産は、地域社会への生活向上支援や教育機会の提供など、多様な社会貢献活動を展開しています。具体的には、社会的・経済的に恵まれない人々への支援や、自然災害時の緊急支援など、地域のニーズに応じた取り組みを行っています。
これらの取り組みを通じて、日産は持続可能な未来の実現に向け、革新的な技術開発と社会貢献を両立させる企業としての役割を果たしていきます。
日産の歩みを振り返り未来を展望する
日産自動車は、1911年の創業以来、激動の時代を乗り越え、革新的な技術と経営改革を通じて成長を遂げてきました。その歴史は、創業期の小型車「ダットサン」から始まり、スポーツカー「フェアレディZ」や「スカイラインG-TR」の開発、新しい電動化技術「e-POWER」の導入など、常に時代を先取りした挑戦に満ちています。
特に、1990年代の経営危機を克服した「日産リバイバルプラン」や、電気自動車「リーフ」の発売は、日産がグローバルな自動車メーカーとしての地位を確立する重要な転換点となりました。また、モータースポーツへの挑戦を通じて得た経験は、技術力の向上だけでなく、ブランド価値の向上にも寄与しています。
現代の自動車業界は、電動化や自動運転技術といった新たな潮流の中にあります。日産は「Nissan Ambition 2030」という長期ビジョンのもと、環境に配慮した持続可能なモビリティ社会の実現を目指しています。特に、カーボンニュートラル達成や全固体電池の開発は、未来の自動車産業の在り方を大きく変える可能性を秘めています。
これまで培われてきた「技術の日産」という精神は、単なる車両製造にとどまらず、社会全体の課題解決に貢献する力へと進化しています。日産の取り組みは、地球規模での環境問題や安全性向上のニーズに応え、次世代のモビリティ社会に向けた道筋を照らしています。
これからも日産は、常に革新を追求し、多様なニーズに応える車両を提供し続けることで、世界中の人々に感動を与える存在であり続けるでしょう。その歩みには期待と希望が満ちており、これからの挑戦にも大きな注目が寄せられます。
最後に、日産の歴史を振り返ることで見えてくるのは、困難な状況でも常に新たな道を切り開いてきた挑戦の連続です。その精神は、未来への大きな原動力となり、日産が次の時代でも輝きを放ち続けることを確信させてくれます。
